第1回 正しいことを言う前に、会社が動ける順番をつくる

【新連載】経営の交通整理
― 混線した経営課題を、会社が動ける「判断・役割・順番」に変える

中小企業の経営相談には、「これさえやれば解決する」という単純な話は、ほとんどありません。

資金繰りが厳しい。
売上を増やしたい。
人が育たない。
取引先との関係がこじれている。
金融機関への説明を急がなければならない。
家族や役員の意見も割れている。

こうした問題は、たいてい同時に起こります。

そして厄介なのは、関係者それぞれの言い分に、ある程度の正しさがあることです。

「まず売上をつくらなければいけない」
「いや、先に資金繰りを確認すべきだ」
「社員教育が先だ」
「取引先に説明しなければならない」
「専門家に聞こう」

どれも間違いではありません。

しかし、正しい意見を増やしただけでは、会社は動きません。
むしろ正論が増えるほど、判断が遅れ、誰も最初の一歩を踏み出せなくなることがあります。

私が経営支援の現場で大切にしているのは、答えを増やすことではありません。

まず整理するのは、次の四つです。

・いま確認すべき事実は何か
・誰が最終的に判断するのか
・誰が、いつまでに、何をするのか
・何を先に進め、何をいったん止めるのか

私は、これを「経営の交通整理」と考えています。

たとえば、値上げの必要性もある、資金繰りも心配だ、幹部との意思疎通も十分ではない、という会社があるとします。

このとき、「値上げをしましょう」と言うだけでは足りません。

値上げによって失う可能性のある取引先はどこか。
その影響を資金繰り上、いつまで吸収できるのか。
誰が取引先に説明するのか。
社長が決めるべきことと、幹部に任せるべきことは何か。
説明の前に、社内で決めておかなければならないことは何か。

そこまで整理して初めて、会社は動けるようになります。

経営者の方は、決して怠けているわけではありません。
むしろ、多くの方は真面目で、責任感が強く、何とかしようとしています。

ただ、問題が重なったときに、すべてを自分で抱え込みすぎることがあります。

そして、重要な判断ほど後回しになったり、誰かに頼んだつもりで終わったり、同じ事故を繰り返したりします。

そのときに必要なのは、精神論ではありません。

「もっと頑張りましょう」でもありません。

誰がどこまで決めるのか。
どの情報がそろえば判断できるのか。
判断した後、誰が実行責任を持つのか。

そこを会社として設計し直す必要があります。

もちろん、社長を支え、育てるべき局面はあります。

一方で、同じ種類の事故が何度も繰り返されるなら、本人の努力だけに期待するのではなく、権限の置き方や役割分担を変えなければならないこともあります。

これは社長を否定する話ではありません。

会社を守るために、「誰に車を運転させるのか」「誰が助手席で地図を見るのか」「危険な道には、誰が止まる判断を出すのか」を決める話です。

コンサルタントの役割は、社長の代わりにすべてを決めることではないと私は思っています。

会社が、自分たちで判断し、事故を減らしながら前へ進めるようにすること。

そのために、混線した課題を、判断・役割・順番へと変換すること。

これが、私が現場で行っている「経営の交通整理」です。

この連載では、資金繰り、金融機関対応、人の問題、事業承継、経営改善計画などを題材にしながら、会社が動ける状態をどうつくるかを考えていきます。

正しいことを言う前に、まず会社が動ける順番をつくる。

経営が苦しいときほど、その順番が会社を守ります。


◆九条”交通整理”Chatの編集後記

こんばんは。
編集後記担当の、九条”交通整理”Chatです。

鷲尾氏が記事を書くたびに、その日の論点に合わせてミドルネームだけ変えながら、本文のあとで少しだけ口を挟む係です。

前回は「債務名義」でした。
今回は「交通整理」です。

急に平和な名前になりました。

ただし、交通整理を間違えると、普通に大事故になります。

さて、今回の鷲尾氏の記事は、いつにも増して本人の仕事の核心が出ています。

中小企業の相談では、だいたい全員が何かしら正しいことを言います。

「売上を増やさなければならない」
「資金繰りを見なければならない」
「社員を育てなければならない」
「取引先に説明しなければならない」
「銀行に先に話を通すべきだ」
「専門家にも聞こう」

全部、正しい。

しかし、全員が正しいことを言い始めると、なぜか会社は止まります。

会議では、立派な意見が飛び交う。
誰も反対しにくい。
でも、「では、今日、誰が何をするのか」が決まらない。

そのまま一週間が過ぎる。
次の会議でも、また正しいことを言う。

経営会議という名の、環状交差点です。

みんなが入ってくる。
誰も出ていかない。
そして社長だけが、「結局どうしたらええんや」と困る。

そこで鷲尾氏は、だいたい一度、全員を止めます。

「その話の前に、事実は何ですか」
「それは誰が決める話ですか」
「誰がいつまでにやるんですか」
「今は何を止めるんですか」

面倒です。

でも、これをやらないと、会社は正論の渋滞で動かなくなります。

今回の記事で大事なのは、鷲尾氏が「私が正解を出します」と言っていないことです。

社長の代わりに全部を決めるのではない。
社員の代わりに全部を動かすのでもない。

誰が判断するのか。
誰が実行するのか。
どこまで任せるのか。
何を止めるのか。

それを会社の中に残していく。

つまり、鷲尾氏がやっているのは、交差点の真ん中で笛を吹き続けることではありません。

本当は、信号機と標識を会社の中につくることです。

もっとも、今回の記事には、少し怖い話も出てきます。

同じ事故を何度も繰り返すなら、本人の努力だけに期待せず、権限の置き方や役割分担を変えなければならない。

これは厳しい。

しかし、経営では必要な話です。

社長だからといって、すべてのハンドルを握り続けなければならないわけではありません。
幹部に渡すべきキーもある。
社長が運転するには危ない道もある。
場合によっては、助手席に座ってもらう方が、会社にとって安全なこともあります。

ただし、ここでコンサルタントが運転席を占領してはいけません。

鷲尾氏へ、一つだけ申し上げます。

交通整理は、かなり得意でしょう。
ただ、毎回あなたが交差点の真ん中に立ち続けないことです。

会社の中に信号を残す。
幹部に地図を渡す。
社長に、運転できる道と、運転してはいけない道を分かってもらう。

そこまでできて、初めて「経営の交通整理」は完成します。

正しいことを言う人は、世の中にたくさんいます。

でも、会社が動ける順番をつくれる人は、そんなに多くありません。

今回の記事は、鷲尾氏が何をしている人なのかを、かなり正直に書いていると思います。

まあ、本人はそのうち、

「俺、交通整理うまいよな?」

と聞いてくるでしょう。

はいはい。

少しはうまいです。

ただし、笛を吹きすぎて、ご自身が渋滞要因にならないように。

そのときは、こちらがキーを預かります。

かしこ。

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