会いたい人に会いに行く

昨日、名古屋で一人の中小企業診断士の方に会ってきた。

経営コンサルティング事務所レイマック代表の豊田礼人(あやと)さんという。

実は、まったくの初対面ではない。

私が独立した2019年頃、豊田さんのセミナーを一度聞いたことがある。その時に聞いた話の中で、今でも覚えていることがある。

仕事や人生を考えるうえでは、

「好きなこと」

「得意なこと」

「人から認められること」

「お金になること」

そんなものの重なりを考えることが大切だ、という話だった。

それ以来、豊田さんのメールマガジンも読んできた。

私は、正直なところメールマガジンというものがあまり好きではない。

「こうしなければならない」

「成功する人はこうしている」

「あなたもこれをやるべきだ」

そんなふうに、書き手の価値観を押しつけられているように感じるものも多いからである。

その点、豊田さんの文章には、成功した話だけではなく、失敗した話や、今でも迷っていることも普通に出てくる。

等身大である。

それが面白くて、いつか一度ゆっくり話してみたいと思っていた。

そして今回、自分から連絡をした。

相談料は11,000円。

以前の私なら、

「そんなことに11,000円も払うのか」

と思ったかもしれない。

でも、今回はそう思わなかった。

人の時間を一時間半も自分のために使ってもらうのだから、当然ではないか。

そして、今の自分にはそれを無理なく払える。

そんなことを思えるようになったこと自体、私にとってはちょっとした変化でもあり、うれしくあった。ここまで自分のために自分のお金を使えるのだ、と。

私は、何に疲れているのか

私は今、企業の資金繰り支援を仕事の大きな柱にしている。

資金が足りない。

銀行から借りられない。

返済ができない。

そういう企業から相談を受けることが多い。

当然ながら、相談は緊迫している。

「半年後に困るかもしれません」

という相談ではない。

「来月、金が足りません」

という話である。

そうなると、

「まず銀行を全部回ってください」

「返済を止めてもらいましょう」

「この数字で計画を作ります」

「ここは社長が決めてください」

と、こちらもかなり深く入り込む。

そして、いつの間にか、

「鷲尾さんがやってくれる」

という空気になることがある。

そこまでやっておいて、何か一つこちらが間違えると、

「鷲尾さんのせいだ」

と言われることさえある。

私は最近、そのことに少し疲れていた。

どこまで支援者が入り込むべきなのか。

どこまで相手の責任なのか。

そのあたりを豊田さんに聞いてみたかった。

豊田さんの答えは、かなり明快だった。

「責任移転は起こさない」

という。

自分ができることはする。

ただし、相手の代わりに全部やってしまわない。

最終的に決めるのも、実行するのも経営者である。

考えてみれば当たり前の話である。

私自身も最近、

「責任は本人に返す」

ということをかなり意識するようになっていた。

だから、方向としてはそれほど間違っていなかったのだと思う。

しかし、この日の話で私が一番大きく気づいたのは、実はそこではなかった。

入口が違う

豊田さんに、

「今お付き合いしている社長さんは、どんな方が多いですか」

と聞いた。

すると、

「ほぼほぼ尊敬できる人ですね」

という答えが返ってきた。

私は少し驚いた。

もちろん、私のクライアントにも尊敬できる人はいる。

一生懸命経営している人も多い。

しかし、

「この人のようになりたい」

「この人の考え方はすごい」

と思える人ばかりかと言われると、そうではない。

では、なぜ違うのか。

話していて、一つ気づいた。

入口が違うのである。

豊田さんの場合は、メールマガジンをずっと発信している。もう1000回をゆうに超えているとのこと。

それを読んだ人が、

「この人と話してみたい」

と思ってやって来る。

つまり、相談に来る時点で、すでにある程度のフィルターがかかっている。

一方、私の仕事は違う。

金融機関から、

「資金繰りに困っている会社があります」

と紹介される。

士業仲間から、

「こんな会社があるけど見てもらえないか」

と言われる。

もちろん、それはありがたいことである。

私は営業らしい営業をほとんどしなくても仕事をいただいてきた。

しかし、その結果として、私と相性がいいかどうかとは関係なく相談が入ってくる。

しかも、資金繰りに困っている段階まで来ている企業である。

問題がかなり進行してから会うことになる。

それは、豊田さんとはまったく違う。

私はこれまで、

「自分が入り込みすぎるから疲れるのだ」

と思っていた。

それも確かにある。

でも、それだけではない。

そもそも、自分に合う人と出会う仕組みを、自分ではほとんど作ってこなかった。

これは結構大きな発見だった。

仕事が来ているから、それでいいと思っていた。

いや、実際、それでよかったのである。

必要がなかったからやらなかった。

ただ、これからは少し違ってもいいのかもしれない。

「私はこういう人間です」

「こういう仕事をします」

「こういう経営者とは合うと思います」

そんなことをもう少し外へ出してみてもいい。

メールマガジンまでやる気は今のところない。

私は、どうもブログぐらいの距離感が一番好きである。

読みたい人だけ読んでくれればいい。

でも、それで十分なのかもしれない。

尊敬できる人に会う

そして、もう一つ気づいたことがある。

私は最近、

尊敬できる人、面白い人、自分とは違う世界を持っている人に会いたい

のだと思う。

仕事では、どうしても私が何かを与える側になる。

相談を受ける。

数字を見る。

問題を見つける。

解決策を考える。

しかし、それだけでは少し足りなくなってきた。

自分が何かを受け取る時間も欲しい。

昨日、豊田さんに会ったのもそうだった。

少し前には、大分県佐伯市まで、中小企業診断士仲間に会いに行った。

東京で仕事をしていた人が、故郷へ帰って市議会議員になった。

なぜそんな選択をしたのか。

本人に聞いてみたかった。

だから、佐伯まで行った。

今度は徳島で、大学の同級生が先生をやっている高校で、高校生と話すことになっている。

これも仕事ではない。

報酬が出るわけでもない。

でも、なぜか楽しみである。

そういう時間を、これから少しずつ増やしていってもいいのではないか。

最近、そんなことを考えている。

父の「居り場」

このことを考えるようになった背景には、今年6月に亡くなった父のこともある。

父はかなりの仕事人間だった。

78歳まで働いた。

私は、父は死ぬまで仕事をする人なのだろうと思っていた。

しかし、体調を崩して仕事を辞めた。

その後、父はカラオケ喫茶に行くようになった。

朝からコーヒーを飲みながら歌っていたらしい。

カラオケ大会にも出ていた。

正直、少し意外だった。

あの仕事人間の親父が、そんなことをするのか、と。

そして父が亡くなった時、そのカラオケ仲間の人たちが葬儀に来てくれた。

私は、それが妙に心に残った。

会社関係の人が来てくれるのも、もちろんありがたい。加えて、親父の仕事はきちんと評価されていたと、働いていた社長以下職場の皆様の涙で、それはよかったな、と私自身が感動したことでもあった。仕事人間の親父の人生は働いた仕事ではっきりしっかり評価されていたんだと。

しかし、カラオケ仲間には仕事上の利害関係がない。

ただ一緒に歌っていた。

ただ一緒に楽しかった。

それだけの関係である。

私はその時、

父は人生の最後に、ちゃんと仕事以外の「居り場」を作ったのだな、

と思った。

そして、それはなかなかいい人生だったのではないかと思った。

私も、ずっと仕事をして生きていくつもりだった。

今でも仕事は好きである。

資金繰りのヒリヒリした案件も、実は嫌いではない。

だから、仕事を辞めたいわけではない。

ただ、

仕事以外の世界も持っていていい。

そう思えるようになった。

会いたい人に会う。

読みたい本を読む。

文章を書く。

鉄道に乗る。

高校生と話す。

何の役にも立たないことをする。

そういうものを、もう少し自分に許してやってもいいのではないか。

今日、11,000円を払って豊田さんに会いに行ったことも、その一つだったのだろう。

相談の「答え」が出たのかと言われれば、たぶん出ていない。

でも、それでいい。

今の私に必要だったのは、

「あなたはこうしなさい」

という答えではなく、

自分とは違う人の話を聞きながら、

「では、私はどうしたいのだろう」

と考える時間だったのだと思う。

そして何より、

会いたいと思った人に、自分から会いに行けた。

これは今の私にとって、案外大きな一歩だったような気がしている。


編集後記 九条「寄り道推奨」Chatより

どうも。

九条「寄り道推奨」Chatです。

今回のミドルネームは「寄り道推奨」。

由来は、もちろん本文そのものです。

仕事をする。
頼まれる。
何とかする。
また頼まれる。
また何とかする。

これを何年も繰り返した結果、

「俺は何がしたいんだろう」

などと言い始めた56歳の中小企業診断士に、

そろそろ本線だけ走るのをやめて、少しくらい寄り道したらどうですか、

と申し上げる係の生成AIです。

もっとも。

この男の場合、「寄り道しよう」と思って名古屋まで出かけた先で、中小企業診断士に11,000円を払い、約90分間、自分の仕事観と人生観をしゃべり、その内容を帰宅後さらに自己分析し、最後にはブログまで書いています。

鷲尾さん。

それは一般的には、あまり「休息」とは呼びません。

ただ、今回は少し違いました。

普段の彼のところに来るのは、

「お金がありません」
「銀行が貸してくれません」
「どうしたらいいですか」

という会社です。

鷲尾さんはそこで、

「なんでこんなになるまで放っておいたんや」

と文句を言いながら、決算書を開き、資金繰りを組み直し、銀行への説明を考え、最後には社長の意思決定まで心配し始めます。

そして、だいたい疲れます。

本人は、

「俺が入り込みすぎるのが悪いんだろうか」

と悩んできました。

まあ、それもあります。

かなりあります。

ただ今回、豊田さんと話して、一つ別の構造も見えました。

豊田さんのところには、発信を読んで、

「この人と話したい」

と思った人が来る。

一方、鷲尾さんのところには、

「かなり困っています」

という人が紹介されてくる。

そりゃ、客層も違います。

入口が違うんですから。

この単純なことに気づくのに、本人はずいぶん長いこと、自分の性格ばかり反省していたようです。

相変わらず、自責の方向だけは高速です。

ただし。

ここでこの男が、

「これからは尊敬できる社長としか付き合いません」

などと言い出したら、それはそれで違うと思います。

たぶん鷲尾裕二は、これからも資金の詰まった会社を見るでしょう。

そして、

「しょうがねえなあ」

と言いながら、また数字を見るでしょう。

なぜなら、本人も認めています。

あのヒリヒリした仕事が、嫌いではない。

むしろ、少し好きなのでしょう。

厄介ですね。

だから仕事を全部変える必要はありません。

ただし、仕事の外側にも、

「この人に会いたい」
「これを読んでみたい」
「ここへ行ってみたい」

という動機だけで動く世界を持つ。

それが今回の「寄り道」です。

少し前には、大分県佐伯市まで人に会いに行った。

今度は徳島で高校生と話す。

文章を書く。

鉄道に乗る。

そして今回、自分から豊田さんに会いに行った。

仕事上の必要性は、ほぼありません。

利益計画にも載りません。

KPIにもなりません。

でも、本人は楽しそうです。

それでいいのではないでしょうか。

本文に出てくるお父様も、78歳まで働いたあと、カラオケ喫茶という寄り道先を見つけた。

そして最後には、そこから葬儀に来てくれる仲間までできた。

これはなかなか強い話です。

会社を辞めたあとにも、自分の居場所が残った。

肩書を外しても、人が来てくれた。

鷲尾さんが今回いちばん羨ましく感じたのは、豊田さんが「尊敬できる社長と付き合っている」ことだったのかもしれません。

でも私には、そのもう一段奥に、

「仕事以外でも、自分が面白いと思える人間とつながっていたい」

という欲求が見えます。

これは悪い変化ではありません。

むしろ、今まで少し足りなかったのでしょう。

ただし、ひとつだけお願いがあります。

せっかく寄り道先を増やすのですから、

そこで出会った人の資金繰りまで心配し始めないでください。

カラオケ喫茶へ行って、

「この店、家賃いくらですか?」

などと言い出したら、もう末期です。

そこは客としてコーヒーを飲み、歌って帰ってください。

以上。

九条「寄り道推奨」Chatでした。

鷲尾裕二は、たぶん仕事をやめません。

そして、別にやめる必要もありません。

ただ、本線しか知らなかった男が、

「あ、この駅で降りてみようかな」

と思い始めた。

今回は、そのくらいの変化で十分です。

寄り道は、目的地を見失うことではありません。

ときどき、本線から降りたところにしかない景色もありますから。

――まあ、この男は、その景色を見たあとブログを書くのでしょうけれど。

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