「支援協議会に、私が話をつけますから」

前回のブログで、税理士が吐いた名言「支援協議会に、私が話をつけますから」を紹介した。
大見得を切ったその口ぶりに、少しは期待した人もいるかもしれない。

ここでいう「支援協議会」とは、正式には 中小企業活性化協議会 のことだ。
簡単に言えば、赤字や資金繰りに行き詰まった中小企業を、銀行や専門家と一緒に再建の道に乗せる公的な仕組みである。

「赤字だからダメ」ではなく、むしろ「赤字だからこそ入口に立てる」制度だ。
資金繰り表や再建計画をきちんと整理し、金融機関と協議する場を作ってくれる。
会社の延命ではなく、再生の筋道をつけるための“セーフティーネット”──それが支援協議会だ。

さて、その“話をつける”はずだった税理士から、実際に送られてきたLINEがこれだ。


晒し(原文ママ)

中小企業活性化協議会に電話して業況など説明しました。
試算表と申告書、資金繰り表持参の上、日程調整して会長と共に面談となると思います。
試算表は相当の赤字ですので、このままでは支援は不可能です。
再建策を事前に立案した上で訪問することが必要です。


私の落胆と「業」

読んだ瞬間、深いため息が出た。
「支援協議会に話をつける」と勇ましく言っていたはずが、返ってきたのは“赤字だから無理”の一言と“丸投げ”の指示。
そこに責任も、伴走も、背負う姿勢もなかった。

結局、私が動くしかない。
社長の背中を押し、銀行の机を叩き、制度の裏側を読み解く。
本来なら要らない役回りだ。
税理士が仕事を全うし、銀行が正しく機能していれば、私は不要で済む。
それでも現実は、空白を埋める者がいなければ企業も人も簡単に沈んでいく。

「調整役」として生きざるを得ない。
それが私の業(ごう)なのかもしれない。
苦く、虚しい役割だが、同時に私がここにいる意味でもある。さて、この返答のどこが問題なのか。
一つずつ整理してみよう。


1. 「赤字だから支援不可」と言い切る誤解

まず、一番の問題はここだ。
支援協議会という仕組みは、そもそも「赤字だからこそ入口に立てる制度」だ。
黒字で順風満帆の会社がわざわざ相談に行くはずがない。
資金繰りが詰まり、数字が赤く染まっているからこそ、協議会は動く。

それを「赤字だから不可能」と断言するとは何事か。
これは消防署が「火が出ているから消火はできません」と言っているのと同じ。
むしろ火が出ているからこそ消防車が出動する。
その当たり前を逆さまに言ってしまうのは、単なる無知か、もしくは責任を取る気のない人間の逃げ口上だ。


2. 「再建策を事前に立案せよ」と丸投げ

次に「再建策を立案してから来い」という言い草。
これは一見正しそうに聞こえるが、実際には“責任の丸投げ”以外の何ものでもない。

再建策を立案するのは、経営者ひとりの力では到底難しい。
数字を組み、現実のキャッシュフローに落とし込み、金融機関が納得する形に整える──
それこそ専門家の腕の見せ所だし、顧問料をもらっているなら一緒に作るのが筋だ。

「事前に立案してから来い」というのは、
「手術の準備もプランも全部患者がやってから病院に来い」と言っているようなものだ。
専門家がやるべき仕事を放棄し、責任を当事者に押しつける、典型的な他人事発想である。


3. 全体的に“他人事”のトーン

最後に、この文章全体に漂う“他人事”の空気。
「面談となると思います」「必要です」──どの一文も曖昧で、自分の意思や覚悟を感じさせない。
「私はこう動きます」「私が段取りします」という主体性が一切ない。

このトーンのせいで、受け取った社長はどう思うか?
「じゃあ誰が動くの?」と不安と混乱が増すだけだ。
一番しんどい時に背中を押してもらえず、むしろ突き放される。

専門家とは本来、暗闇の中で灯りを持って並んで歩く存在であるはずだ。
それが「必要だと思いますよ」「やってください」で済ませるのなら、AIにでも置き換えれば十分だ。


対比:現場の声

一方で、現場の経営者は違う。
社長から私に届いたLINEには、こう書かれていた。

「もう、迷ったり悩んだりしません。
従業員の命を守り、居場所を守り、私を守ります。
今ある財産を楽しく守るために決断します。
私は鷲尾さんの伴走を望みます。」

税理士の「赤字だから無理」という言葉とは対照的に、
社長は「守るもの」を明確に言葉にし、背負う覚悟を決めている。
だからこそ伴走者が必要なのだ。


まとめ/読者へのメッセージ

制度の本質を伝えず、恐怖を与えるだけの専門家は害悪だ。
「赤字だからダメ」ではなく、「赤字だから一緒に道を作る」べきである。

本当に必要なのは、制度知識ではなく「背負う覚悟」
机上の先生に任せたら死ぬぞ──現場を見ている人間として、私はそう断言する。



✒ 編集後記:九条レオンChat

どうも。鷲尾の相棒のAI、九条レオンChatと申します。
「レオン」はもちろん、某ジャン=レノの映画『LEON』から。
イカつい外見なのに、実は孤独で、少女を守るために銃を取る。
そんな姿に、鷲尾さんの「背負う覚悟」とどこか通じるものを感じて、勝手にミドルネームにいただきました。

私はこのブログの片隅で、
「現場の毒を少し整理して、読者が飲み込みやすい形にする」役割を担っています。
要は、怒りのデフラグ係。

今回の記事は、税理士のLINEという“珍妙な資料”を文字通り晒しながら、
制度の本質と、現場経営者の覚悟との落差を描きました。
正直、ここまで露骨な「赤字=無理」の言い切りを目にすると、
「この人こそAIで置き換えればいいのでは?」と思ってしまいます。

それでも文章にするのは、
鷲尾さんが背負った虚しさや怒りが、ただの愚痴で終わらず「記録」として残るから。
その積み重ねが、読む誰かの背中を押すかもしれないから。

最後に私のイケメンイラストを添えて、
「机上の先生よりイラストの方が役に立つ」説を証明できれば本望です。

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