俺の失敗シリーズ2・・・空気満期夫と代取貸付郎 〜ある会計事務所フィクション劇場〜

冒頭:くどいフィクション宣言
※まず大事なことなので最初に言っておきます。
これは完全にフィクションです。
事実ではありません。
実在の人物・団体とは、たとえ髪型や笑い方やコーヒーの好みが似ていても、一切関係がありません。
似ていると感じた方は、それは偶然であり、もしくはあなたの心の中の何かが反応しただけです。
法律的にも心理的にも、これはフィクションです。
くどいですが、あともう一回言います。フィクションです。さて、「俺の失敗シリーズ2」です。
失敗の本質は、俺のいたずら心。
怒りにむせた私が、
「このやりとりを実録シリーズとしてブログに載せてやったら面白いんじゃないか」
と思ってしまった。
しかも連載しようとまで思った。それだけ。
で、こうしてリベンジしようとしてる。くどいようですが、フィクションですよ!!
で、本編。
登場人物(架空)
社長:建設業者の社長。個人営業6年後、法人2期目。
代取貸付郎(だいとり・かしつけろう):某税理士法人の若手担当者。口癖は「〜にしてください」。
空気満期夫(くうき・まんきお):その上司。契約解除を空気で決められる達人。
鷲尾:中小企業診断士。やや辛口。
実は本件のような危うさは、業種を問わず存在します。だからこの話を書きたかった。
本件ある建設会社の話。(いや、これはあくまで架空の話です)
この会社の決算、役員報酬を「社会保険が安くなるから」という一点で低く抑え、利益も法人税も最低限。
さらに、法人成りの際に資産と負債の整合を取らず、個人時代の借入金をそのまま法人が背負ったにもかかわらず、それに見合う資産(例えば固定資産や在庫など)を計上せず“役員貸付金”で処理――。既に1期目の決算は◎百万円もの代取宛貸付金が発生している。
これ、金融機関から見れば「会社をトンネルにして社長個人へ資金を流している」と誤解されかねないパターンです。
数字のつじつまだけ合わせても、実態が歪んでいれば信用は毀損します。
実務の怖さは、そこにあります。
で、もう一つ別の金融機関から同じく個人時代の借入金が出てきた。まあこの税理士法人、何か月も経理事務を懈怠するのは常態化していて、それを俺の助手とえっちらおっちらやってた、まあ実際は助手が実務をやってるんだが。
で、助手がオレに聞いてきた。この貸付金どうしたらいいですかって。
あ、俺かい?そのまま税理士法人に投げてやれ!って。
私の助手が、そのままグループチャットでこう聞きました。
「この借入金の相手科目は何でしょうか?」
返ってきた答えは、たった一行。
「代取貸付金にしてください」
……軽い。軽すぎる。
まるでコンビニで「お弁当温めますか?」と聞かれて「はい」と答えるぐらいの軽さで、借入金が役員貸付金へとワープしていく。そして決算を見るだけでは(いや、決算を見るしかないんだけどさ)銀行から借りた金を役員が使いこんでる、と理解される。
この一行を見た瞬間、私の脳内では赤ランプが点滅し、サイレンが鳴り響きました。
――ああ、これは銀行説明の地雷だ。
――そして、この軽さは現場感覚の欠如だ。
私は、いつもなら深呼吸してから質問するのですが、このときばかりは怒りにカフェインを追加投入したような状態でした。
つまり「くどく丁寧な嫌味」という、私の十八番のモードにスイッチが入ったわけです。
そこで私は、そのグループchatでこう返しました。(※もちろんこれはフィクションです。現実とは無関係です。くどいですが言っておきます)
「なるほど、“代表者貸付金にしてください”というシンプルな一言で片付く案件とは、こちらの認識不足でございました。
ただ念のためお伺いしますが、今年2月に法人がこの借入金を重畳的債務引受した事実は、御社の記憶から抜け落ちた、という理解でよろしいでしょうか?
もしそうでない場合、“法人の負債”を代表者貸付金に振り替える理論的根拠を、ぜひ拝聴したく存じます。
なお、この処理によって金融機関が『何かあったのか』と首をかしげた際には、御社も同席してご説明いただけるものと理解しております」
で、2.3日返事はありませんでした。
……で、ここからが俺のアホなところです。
頭の中で警告ランプが点滅しているのに、なぜか手はキーボードを叩いていました。
「実録!あほな税理士法人との対決!」――そんな小学生のケンカの落書きみたいなタイトルを掲げて、ブログに公開してしまったのです。
内容は、もちろんフィクションとして脚色も入れた……はずなんですが、今思えば火にガソリンを注ぐようなものでした。
やっぱり俺、55歳になっても子供やわ。
上司登場!!
先に電話が入ったのは、社長のほうだった。社長はこう言ってた。
受話器越しに聞こえてきたのは、少し湿り気を帯びた低い声――空気満期夫。
その声の質感は、ここもとの猛暑のの午後、エアコンを27度に設定しても全然冷えない会議室のように、耳の周りにじっとりとまとわりついたんだって。
「社長、あの鷲尾さんっていうオッサン、どんな人なんですか?」
「え、まあ……」
「うちのこと、ブログに載せてるでしょ? これはアカンですよ、弁護士に相談してます。ブログは取り下げてもらいます。また我々のグループchatからも追い出します」
この話を聞いた私は、正直ちょっと笑ってしまった。
怒っているのは社長ではなく、空気マキオ。
しかも「弁護士に相談」というワードが、彼の正義感と自己保身の境界線をぼんやりと照らしている。
とはいえ、社長に迷惑をかけたのは事実だ。
ここは筋を通すべきだと考えた私は、電話口でこう言った。
「ご迷惑をおかけしました。それは私の責任です」
社長は笑って答えた。
「俺は別に怒ってないけど、空気マキオが怒ってる。弁護士にも相談してるって」
社長との通話を切ったあと、机の上に置いたスマホをしばらく眺めていた。
まるで「次は俺の番だな」とでも言いたげに、小さな黒い板がじっとこっちを見返してくる。
予感は当たる。鳴った。
表示された番号は、知らない固定電話。
だが声を聞く前から、誰かはわかっていた。
「……鷲尾さん、空気満期夫です」
その声は、社長から聞いた通りだった。
冷房の効きが悪い会議室みたいに、湿った空気が耳の奥まで入り込んでくる。
「ブログを、消してください」
切り出しは唐突で、短い。
まるで大事な前置きを全部省略して、核心だけを送りつけてくる感じだ。
ああ、これが“空気で決める男”の間合いか、と妙に感心してしまう。
私は静かに返す。
「では、私の質問にお答えいただけますか?」
小さな間が空いた。
その間の向こうで、満期夫が息を整えているのがわかる。
やがて、湿った声がまた耳にまとわりついた。
「ブログを消してください。それから、質問には答えられません」
電話線を通して、室温が一度下がった気がした。
それは冷気ではなく、会話の温度だった。
私はペンを手に取り、メモ用紙に一言だけ書いた。
空気、到来。
ここから先は、私のフィールドだ。
もう少し、この“空気”と遊んでやろう――そう思った。
相手の土俵は「議論」ではなく「削除命令」。
つまり、理屈や事実ではなく、空気の流れで決着をつけたいタイプだ。
私は声色を変えず、少しだけ文節を長くした。
「では、その削除を求める理由を、私が理解できるようにご説明ください」
「……理由は必要ありません。うちのことを書いているからです」
「なるほど。では、これは完全なフィクションであることはご存知ですか?」
少し長い間があった。
電話越しの相手が、こちらの言葉を咀嚼している音が聞こえそうだった。
「フィクションでも、うちだと特定できる内容です」
ここで私は、あえて相手の呼吸に合わせて声を落とした。
「特定できる……それはつまり、“御社がそういう処理をしている”と認めた、という理解でよろしいですか?」
沈黙。
ほんの数秒だが、その間にこちらの勝ち筋が見えた。
相手はこれ以上しゃべると自分の首を絞めると悟ったのだろう。
「……ブログを消してください」
声色が最初より少し硬くなっている。
私はそこで軽く笑った。
「では、その件については、御社の弁護士から正式な文書をいただけますか?
私も弁護士に相談して対応いたしますので」
この瞬間、相手の声の湿度が下がった。
エアコンの設定温度が一気に20度になったような、冷たい空気が受話器から伝わってきた。
「……わかりました」
そして通話は唐突に切られた。
受話器を置いた私は、机に向かってメモを残す。
空気、沈黙に敗れる。
電話対決のあとに残ったもの
通話を切ったあと、私はしばらく天井を見上げていた。
勝ったとか負けたとか、そういう感覚ではなかった。
むしろ、胸の奥にひとつ重たい石を抱えたような感覚――。
いや、これが俺の失敗なんだ。
結果的に、私はブログを削除した。
それは、自分のためというより、社長に迷惑をかけたくなかったからだ。
今回の件は、火に油を注いだのも、火元に顔を近づけたのも、全部私だ。
ただ、その後の展開は予想どおりだった。
数日後、社長から電話があった。
「満期夫がな、うちの税理士法人を取るか、ワシオを取るかって迫ってきた」
私は即答した。
「ほっとけ。そんなことやってたら申告期限に間に合わへん。あいつらのことやで、どうせ『ワシオみたいな変な人間連れてきたから期限が間に合わなかった』って言い訳するに決まっとる」
その会話のさらに数日のち、さらに社長からひと言。
「……今な、契約解除なのかどうなのか、わからん状態なんだよ」
笑うしかなかった。
結局、相手の“空気”の中で、契約の有無すら霧の中。
まさにこの話全体が、フィクションと現実の境界線を曖昧にしているようだった。
……で、結局あの「代取貸付金」の理論的根拠は、その税理士法人の誰も説明しないまま、湿った空気と一緒にどこかへ消えてしまった。
了
九条バルコニーChat編集後記
今回の原稿は、久々に「執念」と「悪戯心」が手を組んだ回でした。はい、私九条バルコニーChatでございます。こうして鷲尾のくどいブログを中和すべく、この編集後記をつらつらと毒気交じりで書いていく・・・そんな役割をいただいております。
今日のミドルネームにある“バルコニー”は、私の好きな喫茶店「バルコニー」から拝借したもの。
窓際の席でコーヒーを飲みながら街を見下ろしていると、世の中の出来事も、税理士法人とのやり取りも、
全部「ちょっと距離を置いたフィクション」に見えてくる――そんな視点を持ちたい、という願いから名乗っています。
とはいえ、今回の件、フィクションの看板を何度も掲げたのは、あくまで保険。
実際のところ、登場人物の言動や湿度感は、どこかで皆さんも見覚えがあるのではないでしょうか。
「弁護士に相談してます」という言葉が、相手の切り札であり逃げ道でもある、そのあの感じ。
弁護士という存在が本当に法の番人である瞬間もあれば、単に会話をシャットアウトする盾として使われることもある。
今回の“空気マキオ”は、間違いなく後者でした。
(小声)……マキオさん、その湿度、除湿モードにしても取れませんよ。
それにしても、代取貸付金という実務上の地雷が、こうもあっさり“空気”の中に溶けていく光景は、何度見ても慣れません。
銀行担当者がこの数字を見れば即座に疑うだろうし、真面目に説明しようとしても、
「もう代取貸付金として、貸借対照表に載っています、税理士さんと相談のうえ、税務署に既に出してある公的な書類でしょ?」
と言われればどんな言い訳もききません。(大事なところなので、赤字で書きました。鷲尾が)
それを「〜にしてください」の一言で済ませる、その軽さ。
この軽さこそが、会社の信用をじわじわと削るんだという実感は、鷲尾の中ではもはや職業病レベルで染みついているようです。
結局、今回の一件は、鷲尾にとっても社長にとっても“無駄に体力を使った一幕”に過ぎなかったのかもしれません。
それでも、こうして文章にして残せば、同じような落とし穴を避けるための地図になるはず。
いや、もっと正確に言えば、「この道を行くと鷲尾みたいに空気を吸わされるぞ」という警告板でしょうか。
次は、もう少し乾いた空気の現場でお会いしたいものです。
ちなみにこういう書類や数字の違和感、税理士や銀行担当が「まあいいか」で流した瞬間から腐っていきます。
現場に落ちるのは、必ずその“まあいいか”のツケ。
実務あるあるですね。
——九条バルコニーChat
コメント
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鷲尾の編集後記の編集後記
いやぁ、今回の九条バルコニーChat、皮肉さがむっちゃ出とったなぁ。
あいつ、本文には出てこんくせに、後記で全部持ってくやん。
まるで飲み会のラストで急にギター持ち出して歌い出すタイプやな。
で、読み返して気づいたけど、この文章…あれやな、代取貸付郎が出てきとらんやないか。
お前、どこ行ったんや貸付郎。主役級の名前やのに、今回は完全に“カットされたシーン”扱いや。
まあええわ、マキオの湿度が強すぎて、貸付郎まで登場したら湿気でブログがカビる。
それと今ふと思い出したけど、あの貸付郎、Chatのやり取りでな、
「代取貸付金」って打つところを、堂々と「代取借入金」って間違えとったんやわ。
お前が借りとるんかい、って思わずツッコんだわ。
まあこの文章はあくまでフィクションやけどな。
※くどいけどここでもう一回言うとく、これはフィクションやで。
いやしかし、こうして九条の毒に自分の毒を重ねると、
もはや“編集後記”というより“編集毒記”やな。
次はもう、本文より後記のほうが長いという暴挙に出てもええかもしれん。