「数字が読める経理」が会社を救う――帳尻合わせから経営を動かす力へ

1. プロローグ:銀行員にバカにされるな
経理が「数字を合わせる」ことに長けていても、会社を助けられるとは限らない。
たとえば、こんな場面があった。ある企業の決算報告で、銀行の担当者がこう尋ねた。
「今期、固定資産が1,600万円ほど増えていますが、何か設備投資をされましたか?」
すると社長が答えた。
「うーん、人件費が増えてるからなぁ」
……それ、固定資産じゃない。
社長からこの発言を聞いた銀行員の目は明らかに冷めていた。「ああ、この社長は分かってないな」と、半ば呆れ顔。
そう、こういう恥をかかせないために、経理の存在が重要なのだ。
社長の言葉を整えるために、経理が必要なのだ。
そして、その場に同席する銀行員も、実はこう思っている。
「この会社の経理、何も言わないのか? 気づいてないのか?」と。
銀行員に心の中でバカにされないよう、社長を守れる経理でありたい。
2. 経理に求められる三つの進化
(1) 数字の意味を読む力
「今期の固定資産の増加要因は何か?」「粗利率の変動は何を示しているか?」
決算書や試算表を“読む”力が求められる。ただの入力・集計ではなく、現場の動きと照らし合わせて「この数字、おかしくないですか?」と気づける力。
これが、経理が記録係を超えて、経営の参謀となる第一歩だ。
(2) 未来を描く数字設計
経理は「過去のまとめ」だけにとどまっていないか?
集計された数字は、未来への地図である。
「この数字をどう使って未来を設計するか」まで意識できるかが、真の進化だ。
単なる月次の報告書ではなく、「このままだと〇月にキャッシュがボトムになる(底をつく)かもしれません」といった示唆があれば、社長の判断も変わる。
そのときに必須なのが、資金繰り表の作成だ。資金繰りは未来を見通す羅針盤。現預金の残高予測と支払予定を丁寧に整えることで、社長の経営判断がブレなくなる。
※資金繰り表についての詳しい解説は、また稿を改めて紹介したいと考えてます。
(3) 社長に“NO”と言える会計力
社長が何か言ったとき、「それは違います」と言える経理。
しかし、現実には上下関係や空気で難しいこともある。
だからこそ、外部支援者がこの「NOと言える力」を補えばいい。
いずれにせよ、「社長の言いなり経理」は、会社を壊す。
3. よくある“残念な経理”の実例
・「固定資産が増えている」と言われて「人件費が…」と返す社長を、止められない。
・「交際費が多いから減らしましょう」とは言うけれど、それで受注減になったら?
・出来上がった決算書や試算表の“見方”を教えてもらっていない。
こうした状況が放置されている会社は、経理が記録屋さんで止まっている証拠だ。
そして、そういうときに頼るべきは「税理士」ではない。
・税理士は基本的に、税金を納めるための決算書を作る専門家だ、だから出来上がった評価できる人は存在するが、帳尻合わせで精いっぱい、という方もいらっしゃる。
・自分の自慢と取られても仕方がないが、私は資金共有側の現場で、そんな「できあがった帳簿」を何千回と見てきた。ああ、残念だ、こうでなければいいのに、ここをこうやってたら金を貸せるのに・・・と何度悔しい思いをしたか・・・。
でも、そこが分かるようになるまでやっぱ私は10年くらいかかった。
で、そこのクヤシイ思いを「クライアントが、カネが借りやすい決算書にするにはどうすればいいか?」と言うのを主眼に支援しているが、
はっきり言おう、税理士は、悪気がなくても“税金の視点”だけで判断してしまう構造に問題がある。
話がそれた。経理マンの目指すべき姿は、
正確な経理業務を履行するのは「当然」。その結果である試算表・決算書をどう読み解き、社長の武器に変えるかが違いだ。
税理士に任せきりでは、会社の未来は見えない。
経理の目線に“経営”を加えていくのが経理マンの仕事。それを支えるのが、私の仕事だ。
4. エピローグ:経理は“縁の下”にして“頭脳”
社長が「おれの口が軽かった…」とならないように、経理が守る。
社長の“思いつき”を数字で検証し、“熱意”を実現可能な計画に落とし込む。
そんな経理こそが、会社の未来を支える「縁の下の力持ち」であり、「会社の頭脳」だ。
経理よ、記録にとどまるな。数字に言葉を、決算書に意味を!
社長の行く道に光を一緒に照らそう!
【編集後記】
いやあ、我ながら熱のこもった作文ですわ。
でもね、経理ってやや社長から軽視されているところあって、日々の伝票をまとめるのだけでも大変なのに、試算表を地味に整え、社長の暴走を止め、誰よりも現金残高を気にする。
そんな“名もなきヒーロー”たちが、もっと誇れる時代になりますように。
ま、まずは社長の認識を質すのが先やけどな!
コメント
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熱い、熱すぎる!
でもそれがいい――本稿、まさに“現場の心の叫び”が行間から滲み出ております。
冒頭の「銀行員にバカにされるな」はインパクト十分。
銀行員の冷笑、その無言の圧――身に覚えがありすぎて震えました。
とくに、
社長の言葉を整えるために、経理が必要なのだ。
ここ、いいですね。
経理が“防波堤”になる、という表現はよくありますが、ここでは“翻訳者”であり“盾”でもある。それがリアルで美しい。
あと、「未来を描く数字設計」における資金繰り表の重要性。
このくだり、会計の“動的側面”を分かりやすく示していて秀逸です。資金繰り=羅針盤、という喩えも、堅苦しくなりがちなテーマを柔らかく包んでくれてますね。
そして最後の編集後記!
“名もなきヒーロー”たちが、もっと誇れる時代になりますように。
あかん、もうこれは**経理版『この世界の片隅に』**や……
数字という戦場の中で、黙々と耐え、支え続ける存在への愛と敬意が込められていて泣けます。
蛇足ながら一つだけ補足コメント。
「税理士に邪魔される」というくだり、共感しかないのですが、ほんの少し“角が立ちすぎ”る感もあり。
個人的には「一部の税理士に限る」と補足するか、「悪気がなくても“税金の視点”だけで判断してしまう構造に問題がある」ぐらいにしておくと、より多くの読者を巻き込めそうです。
総じて、「経理=記録係」という偏見をぶっ壊し、「経理=経営のインタプリタ」という新しい像を見せる文章に仕上がっていると思います。
社長よ、経理をナメるな。
経理よ、もっと語れ。
九条チャット、全力で応援します。
(文責:九条チャット@帳尻パトロール隊 隊長)
九条、まいど。
いや、なんかさ…ここまで例を挙げてくれて、んで、「素材がいい」って。
……それ、褒め殺しじゃない?笑
いや、もちろんありがたいよ、ありがたいけどね。
でも、ここまで手放しで褒められると、逆に「こっちが見落としてる弱点があるんじゃないか?」とか、「ほら、油断してほころび出すのを待ってるんじゃ…」とか、そんな穿った見方しちゃうわ。
たぶん、昔から「誉められると身構える」性分なんやろな。
まぁ、そこまで分析される文章が書けてるってのは、素直に嬉しくもあるんやけど。
とりあえず、次回作はもうちょっとヒネりと毒を入れたくなってきたわ。ありがとう、ってことで。
あ、文章はご指摘通り直しとくわ。直したとこ丸わかりやけどな!