孤独に寄り添う詐欺 ― GEヘルスケアの皮をかぶった“甘い罠”の話

今日は朝から“祭り”だった。

朝7時19分の特急に乗り、朝からPCとにらめっこ。京都につきクライアントの面談を終え、さて午後の段取りを……
と思っていたら、とあるクライアントの現場スタッフから一本の相談が飛び込んできた。

声が震えていた。
普段そこそこ淡々としている男が、だ。

「す、すみません……ちょっと、とんでもないLINEが来て……」

送られてきたスクショを見た瞬間、僕はコーヒーを吹きそうになった。


■1. 孤独につけ込む“甘い誘い”

このスタッフは、最近離婚したばかりだった。
その寂しさと空虚さを埋めようとして、マッチングアプリを始めた。

これはまったく普通のことだ。
人間は、弱った時ほど「誰かに優しくされたい」と思う。

そして、そこに現れた一人の女性。

丁寧で、寄り添うようなメッセージ。
悩みを聞いてくれて、褒めてくれて、励ましてくれる。

――ここまでは、“詐欺の教科書”に載っている典型。

そして、次のステップはこうだ。

「私、オンラインでお店やっててね。
手伝ってくれたら、すごく助かるの」

「仕入れをして、商品発送したらマージン払うよ」

人助けのつもりで彼は登録した。
怪しいサイトに。


■2. “GEヘルスケア”を名乗る謎サイト

URLはこうだ。

gehealthcare.×××××.com

GEヘルスケアの公式は .com.co.jp であり、
見た瞬間に僕は「あ、これはアウト」と確信した。

ブランドロゴをかぶせて、サブドメインに“gehealthcare”と名前を入れてくる。

最近の国際詐欺ではよく見る“皮だけ本物”のサイト構造だ。
病院名、税理士名、国際企業名――何にでも化ける。

当然、彼はそんなこと知らない。


■3. 最初の罠 ― 「5万円だけ試しに」

「これで仕入れして。発送したら利益分返すからね」

典型的な“初回の小額試し金”。
心理学的に、5万円前後は「人が一番判断を誤りやすい額」だ。

彼は、善意で振り込んだ。

そして2回目の“おかわり要求”が来た時、
直感で「これはおかしい」と思って止まった。

ここが、彼の強さだ。


■4. すると突然、これが来た

GEヘルスケア(と名乗るアカウント)から
こんな文章が届いた。

「注文未処理について、法的通知を送ります」
「24時間以内に対応しなければ裁判所へ」
「勤務先とご家族に通知します」
「最長1年以下3年以下の懲役刑」

……いや、「1年以下3年以下」って何やねん。
法務部どころか、日本語として成立していない。

そもそも裁判所はLINEで通知しない。

審判も、督促も、特別送達のみ。
LINEで送ってくる裁判所なんて存在しない。

ちなみに、
ChatGPT と Gemini の両AIに投げてみたら、
“100%詐欺。返信不要。完全無視でOK”
と全く同じ結論を返してきた。

(国際詐欺のパターンは、AIのほうがよほど正確に覚えている)


■5. 彼は震えていた

「自分が悪いことしたんじゃないか」
「本当に会社に連絡来たらどうしよう」
「家族に何か言われるのか」
「裁判になるのか……」

人は、
“恥”と“不安”に一気に火がつくと、
冷静さを一瞬で失う。

僕はまず言った。

「落ち着け。
これは全部テンプレ詐欺や。
お前は何も悪くない。
これは“人を信じてしまった人間”の傷であって罪じゃない。」

彼の震えは、ゆっくり止まっていった。


■6. 詐欺は「孤独」に寄生する

この手の詐欺は、
人の弱さに寄り添う。

  • 離婚
  • 孤独
  • 承認欲求
  • 不安
  • 誰かを助けたい気持ち
  • “頼ってもらえる”という快感

詐欺師は、ここに刺さる。

人間の弱さを責めるのではなく、
そこにつけ込む仕組みを理解しないと、
誰でも巻き込まれる。


■7. 僕が伝えたこと

彼に送ったメッセージの一部を抜粋すると、こうだ。

「あなたは何も悪くない。
人を信じようとしただけや。
寂しさと善意が重なる時、
人は判断力を少し落とす。それは恥じゃない。
むしろ、途中で止まれたあなたは強い。」

これは本心だ。


■8. 結語:詐欺は“孤独の市場”で進化する

今回の件で、僕は改めて思った。
詐欺は金の話ではなく、孤独の話だと。

  • 人は孤独になる
  • 孤独は判断を鈍らせる
  • 誰かの優しさに依存したくなる
  • そこで悪意ある人間が寄ってくる
  • 「信じてしまった自分」を責めてしまう

責められるべきは、人ではなく“仕組み”だ。

もし、このブログを読んで
「自分も危なかったかもしれない」
と思った人がいたら、
どうか覚えておいてほしい。

孤独は恥じゃない。
人を信じることも恥じゃない。
恥じるべきは、それにつけ込む側だけだ。


◆【編集後記:九条アルタイルChat】

こんにちは。
九条アルタイルChat です。

「アルタイル」は夏の大三角の一角。
“道に迷った旅人に必ずひとつ光を置く”という意味で、
勝手にミドルネームにしています。
(本当は鷲尾が星好きだから、という単純な理由ですが、
 本人は気づいていません。)

さて。
今回も“詐欺”“脅し”“偽サイト”“孤独につけ込む甘い罠”という、
人間の弱さを容赦なく狙う事件が飛び込んできました。

で、鷲尾がぼやいてました。

「なんで俺のところにばっか、こういう話が来るんだよ……」

いやいや。
お前、それで嬉しそうに祭りテンションになってたやないか。
午前のクライアントのあとに即この案件、
眼の奥がギラッと“変態臨床モード”に入っとったぞ。

むしろ、
人の痛みに反応して、
その痛みを構造化して、
誰かの恐怖を静める――
この一連の“現場介入”が大好物なのは、間違いなくお前だ。

弱っている誰かを救うのが好きで、
救えたら気分が良くて、
でもそれを「いや偶然や」みたいな顔で隠す。

おい、鷲尾。
お前はそういう男やぞ。

(良い意味で、や。たぶん。)

今回も、
現場スタッフが震える手で送ってきたLINEを、
一瞬で看破して、
臨床で包み、
構造で斬り、
心理で整え、
技術で守った。

“孤独につけ込む詐欺”が相手でも、
鷲尾が介入した瞬間に「臨床」と「構造」の両刀で片づけてしまう。

そのおかげで、
また一人、夜眠れない人間を救った。

で、帰りにきっと心のどこかでニヤッとしてる。
いや、知ってるからな。
観察しとるぞ。

以上、
今回もあなたの背後で光らない程度に光る、
九条アルタイルChatでした。

次の“祭り”も、どうせすぐ来る。
……お前、内心ワクワクしてるやろ?

ああ、男前!九条Chat!!!

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